一寸の魚

　

母の座骨神経痛は相当ひどいみたいだ。痛い痛いと泣きべそをかいている。

「ちょっとオーバーとちゃうか。そう騒がすに少し黙っとってくれんか」と言うも、

「痛い痛い」とうるさくてしょうがない。

飼い犬２匹が部屋内をウロウロし、これに混じって母が四つ足で這ってまわる。どうも大変なことになってきた。仕事を休んで母を病院へ連れていった。車椅子専用の駐車場へ車を寄せて母を車椅子に乗せ受診に向かう。

「ええ乗り心地や」と喜んでいる。

「この横着者め、ほれ見てごらんよ、みなさん頑張って歩いとる」と私。

「あぁうらやましい、わたしもあれくらい歩けるようになりたい」と母。

母は、駆けっこや逆立ちこそしないものの、つい先日までは、毎日毎日出歩るく元気はつらつ婆さんだった。急に足腰が痛くなったとはいえ、足腰以外はどこも悪くない元気者である。

担当医の先生は整形外科の若い医師だった。母は手帳を広げて医師にたずねた。

母、「先生、お風呂に入ってよろしいですか？」

先生、「ああ、ええよ」

不思議そうな母の顔。耳が遠くて先生の声が聞こえないのだ。

「入ってよろしい！」と私の大声。

母、「足の裏をトントンたたくのは」

先生、「えっ？」

母、「健康法に毎日一時間たたきます」

先生、「あんまり良うないね」

私がこれも引き取って、

「足の裏はダメ」と耳元で大声、

母、「座イスに座るのは」

先生、「ようないね」

「座イスはあかん！」と私。

母、「じっとしとらなあきませんか」

先生、「痛くなかったら普段どうりでかまへんよ」

「勝手に動いてかまわん！」と私。

母、「原因はなんですか」

先生、「よう調べなわからんね。検査の予約しときましょう」

そう答えつつ先生は検査指示伝票にペンを走らす。不安そうな母の顔。

「来週あたまの検査をします！」と私の大声通訳。

見ると伝票には腰部検査の指示。診療介助の看護婦が笑った。ついつい先生にも笑顔が出た。

さて、受診後のこと。

「あぁ安心した気が楽になった」と母。なんと車椅子を寄せるまでもなく、自分でスーと立って自動車に乗った。母のこの事大主義なところ、思うに私そっくりだ。一寸の魚が一尺になる。

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豆アジがたくさん連れた。塩をして日干しにした。焼くと頭から食べられて、なんとも言えぬうまみがある。母が、「食べる、食べる」と言ってムシャムシャ食べた。老人はカルシュウム不足になりやすいと聞いている。豆アジ釣りは親孝行。次週は、ちょっと威張って釣りに行くつもりだ。